はじめに

WebRTCの通信形態は大きく分けて、暗号化を解く/メディアを解釈するサーバを介するもの と 介さないもの、の2種類がある。

  • 暗号化を解く or メディアを解釈する サーバを介さないもの
    • P2P
    • TURN経由
  • 暗号化を解く or メディアを解釈する サーバを介するもの
    • MCU経由★
    • SFU経由★
    • (VoIP-WebRTC Gatewayなどもあるが、ここでは取り上げない)

どれが必要になるかは、WebRTCを利用するアプリケーションのユースケースに依存するので、一概に何が1番良いというものはない。

本記事では、上記のうち、★をつけているメディアサーバ(SFU/MCU)の現状(2016年)について記載する。WebRTCを使う上で、特にMCUやSFUに興味がある方には参考になれば幸いだ。

もし、記載で誤っている点などがあれば @iwashi86 までメンション/DMをいただきたい。

本記事を読むと得られるもの・得られないもの

  • 得られるもの
    • WebRTCに関連するMCU/SFUの情報、概要
  • 得られないもの
    • 紹介するそれぞれのプロダクトの詳細(プロダクトへのリンクを付けるので、各人で参照いただきたい)
    • MCU/SFUプロダクトに注力するため、CPaaS(Communication PaaS)の情報は載せない

対象読者

  • WebRTCに関わっている人、特にMCU/SFUに興味がある人
    • 本記事ではWebRTCの基礎的な内容は説明しないので、必要であれば別の情報を参照いただきたい

ということで本題。

TL;DR;

以下の表を見ていただくのが1番早い。ほとんどこれが全て。この表でも満足せずさらに情報が欲しい人は、後半でそれぞれに対して簡単に解説を加えるので、そちらも読んでいただきたい。気に入ったプロダク卜は、該当プロダクトのページを是非チェックして欲しい。

(アルファベット順)

名称 SFU MCU 録画 録音 OSS License 備考や特徴とか
Intel Collaboration Suite for WebRTC 1   N/A Licodeを内部で利用している模様
Janus GPL v3 Janus本体はWebRTCゲートウェイ。SFU/MCUなどの各種機能はPlugin形式で追加
Jitsi VideoBridge   2 Apache2 Atlassian配下。Talky.ioも利用。執筆時点でSimulcastが使える唯一のSFU。
Kurento Apache2 NUBOMEDIAがマネージドKurentoを提供
Licode/Erizo MIT もともとMCUのみ、SFUは後からオプションとして利用可能に
MediaSoup       ISC おそらく最後発のSFU、開発社が触れるNodejsのAPIがあるのが特徴
Medooze   ? SIP連携重視
PowerMedia XMS     N/A 有償のみ、SoftBankが利用
SORA     N/A 時雨堂製、有償のみ
(参考3)OpenTok Mantis ?   N/A Tokboxの内部で利用、非公開
(参考3)SkyLink   N/A SkyLinkの内部で利用、非公開
               

以降、各種プロダクトについて簡易な解説を加える。

Intel Collaboration Suite for WebRTC

Intelが開発しているWebRTCプロダクトスイート。クライアントSDK(JS/Android/iOS/Windows)・サーバSDK・SFU/MCU/SIPゲートウェイなど、ほぼ全て揃えて提供している。フルスクラッチで全て作っているのではなく、MCU/SFUはLicodeベースの模様。GitHubのissueにて、それをほのめかすコメントが出ている。

ちなみに最近、韓国の通信キャリア大手のSK Telecomと提携して話題になった。

Janus

Janus本体はWebRTCゲートウェイであり、libsrtpやlibnice(ICEの実装)を組み合わせて開発されている。各種プラグインを取り込むと、拡張可能であり例えばSFUを実現するプラグインもある。以前の記事でも書いたように、Slackで使われている。

実装はC言語。ライセンスはもともとAGPLだったが、GPLv3に途中から変わった。

Jitsi VideoBridge

Atlassianに買収されて、開発が続いているJavaのSFU。もともとJitsi自体がXMPP系のプロダクトであるため、Jitsi VideoBridge自体もXMPP拡張であるcolibriを外部IFとして備えている。RESTのAPIも公開されている。

IETF系の標準化へのコミットも多く、Simulcastを実装したプロダクトとしては、知る限り最速。Jitsiの開発リーダのEmil氏は、Trickle ICEの著者でもある。

なお、Atlassianプロダクトでも利用されており、それ以外にも http://talky.io/ でも利用されている。

Kurento

もともとMCU向けに開発されているメデイアサーバ。Kurento自体はC++で実装されており、JS/Node/Java向けのSDKが存在する。開発者はSDKを利用してKurentoを操作可能。この辺りは、Nodeで操るKurentoメディアサーバー ( Kurento + WebRTC + Node.js )が非常に詳しい。現在では、MCU機能だけではなくSFU機能も存在している。

NUBOMEDIAというKurentoのマネージサービスもあるので、自分で運用したくない人はこちらも候補になる。

Licode

もともとMCUのみだったが、SFUにも対応している。Licode自体はC++で実装されている。前述の通り、Intel CS for WebRTCの内部で利用されている模様。

参考: https://www.terena.org/activities/tf-webrtc/meeting1/slides/Lynckia.pdf

Meedooze

GitHub公開ではなく、SourceForgeにソースコードがあったりしてちょっと古め?かも。詳細は割愛。

MediaSoup

私が知る限り、最後発のSFU。内部のコアはlibuvを利用しつつCで実装されているが、外向けのIFがJavaScript(ECMAScript 6)なのが最大の特徴。まだまだ実装されていない機能も多いが、少なくともメディアは動作しているのがTwitterに貼られている。

Can handle RTP packets in JavaScript land

というのも謳われていて、JavaScriptから生のRTPを触れる特徴がある。

PowerMedia XMS

Dialogicが開発している、MCUで有償のみの提供。ドキュメントをさっと眺めるとわかるが、MCUとしての機能はだいたい全部入り。

MCUというとビデオのレイアウトが固定されて辛いみたいな話もあるが、昔からある課題であり、RFC5707で標準化もされている。PowerMediaXMSにも、RFC5707は実装されているようなので、おそらく制御できる。

なお、日本ではSoftbank社が利用している。(参考: https://www.dialogic.com/en/company/press-releases/2016/2016-02-17-softbank-deploys-large-scale-webrtc-based-conferencing-application-enabled-by-dialogic.aspx)

SORA

ここまで述べた中で唯一の日本製(時雨堂製)のSFU。

他のSFUと異なり、ビデオルータとしての機能に加えて、スナップショットを利用してリソース抑制する機能など、ユニークな機能が実装されている。その他の詳細機能は時雨堂 WebRTC SFU Sora 開発ログ を参照。


最後に

ここまでメディアサーバの話を書いてきたが、WebRTCはメディアサーバ経由だけではなく、もちろんメディアサーバを介さない通信(P2P/TURN)の形態もある。

P2P/フルメッシュは接続人数がスケールしないのが課題ではあるが、ある程度工夫をすると多少なりとも頑張れる。工夫なしでWebRTCのAPIを素で叩いてP2P接続すると、ピア間通信を最高品質で試みるので、CPUおよび帯域への負荷が高い。工夫を加えた場合、Philipp Hancke氏によれば、映像・音声込みであっても、8人同時接続程度まではフルメッシュで対応できる。また、(これは私の意見だが)双方向通信でなければ or 映像を絞れば、さらに人数を増やすことも可能だ。

それでもユースケースを満たせなければ、メディアサーバを利用するのが良いと個人的には考えている。(どうしても、メディアサーバ分のコストがかかってしまう)

ここまで、書いて力尽きたので、その具体的な方法についてはまた別の機会にでも…。

  1. MCUがメインで、SFUはオプションで利用 

  2. 録画は別ライブラリ 

  3. SFU/MCUプロダクトではなく、プラットフォーム側だが独自のメディアサーバのようなので、参考として追記  2